自覚を欠いた建築物があまりにも多い。
下手な化粧しかできないならば、せめて下手を目立たせない中庸の建物を建てていただきたい。
建物の外部空間についても、建築家はひとりよがりの趣味を見せつけがちです。
ほとんどの場合、地面をコンクリートや擬石ブロックで幾何学模様に敷き詰めてしまう。
樹木や土、水といった自然物によって建物を柔らかく包み込むという発想はないようです。
建物だけがほんとうの仕事で、敷地の仕上げは適当でよいとする建築家の通念が、冬には寒々しく、夏にはいたたまれない無機質の広場をつくりあげてしまう。
日本の街並みが薄っぺらで乱雑なのは、思い込みのつよい建築家の手になる建物と、デザインをはじめから放棄した建物とが軒を接して連続しているからです。
街並みからは、文化をつくり出す都市など想像することもできません。
建築家も、建築物を単なる自己表現の場としてもてあそぶことなく、依頼主との一対一の人間関係をこえて、町並みとの関係を冷徹な都市解析者の目で観察してもらいたいと思います。
成熟した、思慮深い、大人の建築物は、こういう表現はきわめて感覚的ですが、有能な建築家であれば、感覚に応えられる多様な建築デザインができるはずです。
昭和四十年、わたしはアメリカ留学(マサチューセッツ工科大学・ハーバード大学共同都市研究所客員研究員として赴任)から日本に戻るとき、ヨーロッパの都市計画がどうなっているのか、自分の目で確かめたくて、いくつかの都市を訪ねました。
一つに、ドイツのルール地域の中心地エッセンがありました。
ルール地域は世界でも有名な石炭の産地です。
日本では昭和三十年代に三池炭鉱労働者の大労働争議がありました。
炭労が最後のたたかいで負け、石炭から石油へのエネルギー革命があり、石炭産地の斜陽化がはじまったころだったので、ぜひとも、世界でも有数な石炭産地を視察したかったのです。
エッセンは鉱業の町で、戦争中には大砲や戦車を作っていたクルップ社や、日本でいえば日立製作所のようなジッセンヒュッテ製鉄所があって、まさに北九州のようでした。
ただ意外だったのは、街の再開発を意欲的にやっていたことです。
エッセン市役所都市計画局の局長さんのところで、図面を前にいろいろ話をうかがったのですが、彼は都心部の再開発には教会が大事だとしきりに主張するのです。
教会を中心にして広場をつくり、広場と南北にある鉄道の駅との聞にまっすぐな歩行者専用道をつくる。
それから路面電車が走っているから、教会を中心においた市街地の東と西に市電の駅をつくる。
北駅と南駅も路面電車でつなぎますから、路面電車の軌道が市街地を環状にとりかこみます。
電車通りにそって駐車場やショッピングセンターを置き、商店街をつくる。
さらに彼は、この図面上の街をもう少し理解しやすいように見せてやる、というのです。
通されたのが都市計画局長室の隣の会議室で、そこにはエッセン市街地の五百分の一ぐらいの大きな木製の模型が置いてありました。
市役所に専門の木工職人がいて、いつもそれを新しくつくりかえているのです。
模型を見た市民が、ないかな」といったら、木工室に行ってすぐ直す。
会議室で議論をしながら模型に手をいれていくのだそうです。
そこまでやっているのかとほとほと感心してしました。
ドイツではドルトムント、ジユツセルドルフ、ケルンなどにも行きました。
当時、都市計画局長室の隣の会議室兼木工室があり、そこに指物職人がいて、いつでも模型を直せるようにしているというのは、さすがにエッセンだけでした。
同じ頃、アメリカでも市民に都市計画を理解してもらおうという趣旨で、さかんに模型をつくっていました。
日本は東京オリンピックで大騒ぎをしている頃で、ビッグイベントに使う建物の模型はつくるけれども、あくまでも建築模型、敷地模型で、市街地模型ではありませんでした。
「区画整理」をやったあとの市街地についても図面でしか説明していない。
仮に模型をつくったとしても完成模型だけです。
完成模型だけを見せて「こうなります」と言われでも、市民だって取りつく島がないでしょう。
一般市民が「都市計画は専門的なことだからよくわからない」という時代は、それでもよかったのかもしれません。
現在は都市計画とはどういうものか、市民の関心が高まってきました。
都市計画をより具体的に、すばやく市民に理解してもらうためには、模型はとても重要な道具だと思うのです。
ついて模型を出して説明すると、役所と住民との対立関係があきらかに緩和します。
住民のみなさんに模型をみせると、と、みんな模型のところに集まってくる。
そこからの対話のほうがスムーズにいくはずです。
鳥の目、人の目でながめる街いまの縮小型模型、タウンスケープだけでは問題があるのです。
街全体のまとまり、バランスについて判断する場合は有効ですが、上からしか見ることができないから、鳥か神さまの視点なのですね。
殿さまが天守閣から城下町を見ているようなものです。
ほんとうは、模型のなかに自分が小さくなって入り込み、建物や道路を見るとどういうふうに見えるのか、想像できるようなものがいちばんいい。
建物の高さ、街路樹の大きさはどうか。
お日さまは、どれぐらいはいるのか。
レンガの建物なら真っ赤より抑えた色のレンガがいいとか。
いまから四年ぐらい前に、日本の大手ゼネコン数社、コンピュータメーカー、精密機械メーカー、アメリカの研究者にも入ってもらってプロジェクトをつくりました。
簡単にいってしまえば、シミュレーターのなかに模型を入れ、リモートコントロールでカメラを動かし、画面にハイビジョンで映し出すようにしたものです。
大きさは一メートル五十×三メートル程度です。
据え付け型で東京のアーク森ピルの地下回階に固定してあります。
もう一つ、ご用があったらパンに乗せて現地にもっていくことができる移動型のシミュレーターも開発しました。
先日も、埼玉アリーナの競技設計を審査する場所にこれをもっていきました。
まわりに審査員がいるなかで「屋根を上から見るように」「玄関に入るアプローチを人間が歩いていくように」「電車の窓から見られるように」とカメラを動かし、いろいろ注文をしながら模型を見ていって、どの設計がいいかを検討しました。
鳥の目のように街を遠景から見る少し距離を置いて市街地の端っこに立ち、人間の目で市街地全体を見る。
さらに市街地のなかに入り込んで見る。
るんです。
市街地模型は、これまで木材やスチレンペーパーという発泡スチロールのクッション材で作製していたのですが、だんだん物足りなくなって、建物に表情を入れたいと思うようになる。
でも窓や玄関などを一つ一つ模型に描いていったら、シュノーケルカメラはこのように大きな枠のなかにいれられている。
上からカメラをつり、上下左右に移動させる。
精巧につくられた銀座四丁目の模型。
中央にあるのが、シュノーケルカメラ。
これをリモコンで傑作してさまざまな角度から街の様子をながめることができる。
たいへんです。
そこでたとえば銀座の街並みの写真を撮ってきて、模型の建物に貼りつけるようにしました。
カメラのレンズで街並みを上や下から撮れば、かならず歪みます。
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